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文部科学省 科学技術振興調整費
「地震災害軽減のための強震動予測マスターモデルに関する研究」
第3回シンポジウム報告

財団法人地域 地盤 環境 研究所
鶴来雅人

 平成17年3月16日および17日の2日間にわたって,日本青年館(東京都新宿区)において標記シンポジウムが開催された.同シンポジウムは入倉孝次郎京都大学名誉教授を研究代表者とする研究プロジェックトの5年間の成果報告会である.この研究は,従来 経験的手法で行なわれてきた強震動予測に代わって,地震の震源過程や複雑な波動場の数値シミュレーションなどに関する最新の研究成果を導入することにより,信頼性があって社会に役立つ地震動予測の手法を構築することを目的としたものであり,下記4つのサブテーマから成っている.

  • サブテーマ1.予測のための震源特性のモデル化
  • サブテーマ2.予測のための伝播経路特性・サイト特性のモデル化
  • サブテーマ3.強震動予測マスターモデルの構築
  • サブテーマ4.被害予測マスターモデルの構築

各サブテーマの研究内容と当日の講演概要を以下に簡単に示す.

<サブテーマ1.予測のための震源特性のモデル化>
 断層すべりの時間的・空間的な不均一性のモデル化,各種断層パラメータの断層タイプによる整理および地域依存性の整理,活断層情報(変位量分布・セグメンテーションなど)と震源断層の不均一性との関係の整理を行ない,広帯域強震動予測のための震源モデルの構築方法について検討しており,これらの成果が示された.

<サブテーマ2.予測のための伝播経路特性・サイト特性のモデル化>
 3次元地下構造のモデル化手法の提案と大阪平野や奈良盆地への適用,西日本を対象とした広域の地震波減衰構造のモデル化,P波反射法探査記録を用いたS波速度構造モデルの構築,表層の非線形応答のモデル化について検討しており,特に,大阪平野を対象とした強震動予測のための伝播経路特性・サイト特性モデルの提供を行なった.

<サブテーマ3.強震動予測マスターモデルの構築>
 マスターモデルでは,従来の経験的手法に代わり,小地震による波形(これを「グリーン関数」と言う)を断層の面的な広がりに応じて足し合わせ,大地震での地震動を予測する手法を提案している.サブテーマ3ではこのグリーン関数を高精度化する試みや高度化した地震波動伝播数値計算システムに適合したグリーン関数データバンク構築システムの作成を検討している.また,構築されたマスターモデルを1995年兵庫県南部地震および1944年昭和東南海地震に適用することにより,その妥当性の検証している.さらに,マスターモデルに基づいて,上町断層を対象とした強震動予測を行ない,その結果についても報告された.
 一方,データの少ないスラブ内地震に対するマスターモデルが適用性の検討,強震動予測マスターモデルに基づいたシナリオ地震による強震動予測の確率論的強震動予測への利用法を提案している.

<サブテーマ4.被害予測マスターモデルの構築>
 強震動予測結果を地震被害の低減に結びつけるためには,その結果を元に被害を的確に予測する必要がある.サブテーマ4では,個別建築物の地震損傷度予測手法の開発,既往の被害関数との比較,液状化による地盤被害と土木構造物の被害の予測に関する検討を行なうことにより,被害予測マスターモデルの構築とその検証を行なっている.また,観測記録が得られていない歴史地震について,その被害分布から震源モデルの推定法の提案を行なった.

上記の研究プロジェックトの成果報告のほか,以下に示す4件の招待講演が行なわれた.

  1. Carnegie Melon Univ. Jacobo Bielak教授:Interaction between earthquake ground motion and multiple buildings in urban regeions
  2. URS Corp. Robert Graves博士:Broadband time history simulation using a hybrid approach
  3. 東京大学地震研究所 山中佳子助手:大地震アスペリティのマッピング
  4. 内閣府 平井秀輝氏:首都直下地震対策への強震動予測の利用

最後に総合討論が行なわれ,以下の指摘がなされた.

  • K-NETやKiK-netなどの地震計の整備が進み,震源・伝播経路・サイト特性といった地震動特性の解明がある程度進んできた.一方,将来確実に発生する海溝型地震の地震像の解明は不十分で,海底地震計の整備が望まれる.
  • 関西地域には4万本を越えるボーリングデータがデータベース化されており,地盤構造の解明に大いに有効である.しかし,地域的な偏りがあることやPS検層や動的3軸試験が行なわれているデータは極端に少ないことが問題であり,今後の地盤調査にあたってはより質の高い調査が必要である.


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