平成18年1月16日(月)、松山市防災センター大会議室において、「来るべき南海地震に備えて *阪神・淡路大震災の教訓と四国の対策の現状と方向性*」をテーマとした市民向け地震防災フォーラムが、愛媛地震防災技術研究会、土木学会四国支部愛媛地区、関西ライフライン研究会の主催、愛媛県、松山市、愛媛県技術士会、えひめライフライン・マスコミ連絡会の後援により開催された。
東南海・南海地震防災対策推進地域に指定された自治体では、津波からの避難等、具体的な地震防災対策に関する計画の策定および実施が急務となっている。この状況下で、地震発生時の被害を軽減するためには、自治体と地域および市民による連携(公助、共助、自助)が大きな力となり得ると考えられる。そこで、市民に対する地震防災に関する知識普及活動が推進されることは意義が大きいと考え、LiNKでは活動成果の社会的還元の一環として、本フォーラムを共催した。一般参加者50吊、自主防災105吊、土木・建築関係110吊、参加者合計は265吊と大盛況であった。
はじめに、愛媛大学副学長柏谷増男教授から、阪神・淡路大震災、芸予地震の記憶に関して、時とともに記憶が風化してしまうことに言及された。大学としても情報を体系的に収集し地域に提供する役割を担っていくことで、防災に役立てていきたい旨開会の挨拶がなされた。
つづいて、森伸一郎助教授(愛媛地震防災研究会会長)より開催主旨説明がなされた。
愛媛は自然災害が比較的少ない地域であるが、昨年は台風による災害に見舞われた。また、スマトラ島沖地震、新潟県中越地震等各地で大災害が発生しており、当地も南海地震の発生が予測されていることから、防災上、それらの経験の咀嚼・継承・共有が重要であることや、地震災害の防止は困難だが軽減は可能であり、国、地方、個人レベルでの対応も重要であること等が示された。このような背景のもと愛媛地震防災技術研究会と関西ライフライン研究会により、それぞれの経験を確認し共有する会としたい旨説明がなされた。
関西ライフライン研究会(LiNK)小川安雄幹事長(大阪ガス)からは、関西ライフライン研究会からの出席メンバーと講演内容の概要説明と関西ライフライン研究会の活動内容が紹介された。
『都市地震防災からみたライフライン系の相互連関と災害情報システム』をテーマにした土木学会関西支部の研究会を契機として発足し、5期15年間(H4~H18)、第一期「来るべき関西の大地震に備えて《、第二期「阪神・淡路大震災の検証《、第三期「震災の教訓を活かすために《、第四期「来るべき関西地域の大地震に備えて~関西地域は活動期に入った~《、第五期「迫りくる南海・東南海地震と内陸直下型地震に備えて《をテーマにした活動が説明され、阪神・淡路大震災発生前から継続的に研究活動を実施しており、それらの成果を一般市民の方々に情報発信することを目的として、昨年の高知開催に続いて開催されたことが説明された。
愛媛地震防災技術研究会(EEPI)須賀幸一幹事長(芙蓉コンサルタント)からは、設立経緯・目的および活動状況について説明された。
同研究会は、土木学会四国支部から初めて参加した台湾集集地震被害調査(平成11年)、鳥取県西部地震被害調査(平成12年)、芸予地震被害調査(平成13年)を契機に、愛媛県における地域特性を反映した耐震技術地震防災の研究、技術者や専門家を中心とした情報交換の場を提供して資質向上を図ること、地域の地震防災対策の進展に寄与する事を目的として平成14年9月に発足した。これまで、講演会の開催、地震被害調査を実施するとともに、ワークショップ(2004年高浜in松山、in宇和島、2005年久良地区in愛南町)を開催し、住民参加による防災意識の向上を図ってきたことが説明された。
愛媛県消防防災安全課危機管理室左官正雄危機管理監からは、南海地震に対する防災対策の現状と課題について、過去の南海地震発生状況、南海地震の発生確率と南海地震の被害想定および地震防災対策について説明がなされた。南海地震はいつ起きても上思議ではない状況であり、発災直後は思うような救援活動がなかなかできないことを認識し、正しい防災知識を身につけて自分の命は自分で守る姿勢が必要であることが指摘された。
土木学会四国ブロック南海地震研究委員会矢田部龍一愛媛大学教授からは、台風や地震による自然災害が今後増加傾向にあることが示され、それらに対する住民の危機意識の欠如と大都会は水害が発生して当たり前の沖積平野に発展しそこに財産を蓄積している危険性等の問題が指摘された。自然災害のエネルギーは人間の力が到底及ばないものであるが、地域社会の復興のためには若い世代の参加を促し地域に根ざした助け合いが必要であることが示された。
尼崎市消防局早川一隆消防防災課長からは、阪神・淡路大震災における教訓とJR列車事故における民間の対応について説明がなされた。震災の特徴としては、木造建築密集地ではなく、震災の帯の延長上にある家屋が多く被災したことと、液状化地区の被災が目立つことであった。災害時は全ての事案に対応できるだけの組織となっていなかったが、通信指令システムで対応したこと、耐震性貯水槽を震災時の消火に活用したこと、自主防災活動が重要であり育成に取り組んでいることが示された。また、JR事故においては、民間企業による応急手当や搬送が全体の約30%に達し、緊急時対応の一翼を担ったことが示された。
岐阜大学の能島暢呂助教授からは、兵庫県南部地震における被害と復旧について都市とライフラインの依存により災害に弱い体質となっていること、家屋の倒壊率に比べライフラインの被災率は低い震度で発生する可能性が高いこと、対策次第で被害は防ぐことができること等から東海・東南海・南海地震に対するライフラインの地震防災対策の必要性が示された。
京都大学工学部林康裕教授からは、木造建築の耐震診断、耐震補強について説明があった。阪神・淡路大震災の事例では、古い木造家屋の倒壊が着目されたが、蟻害、腐朽の影響も大きいこと、鳥取県西部地震で古い住宅でも倒壊率がさほど高くなかったこと、宮城県北部地震での古い住宅の調査結果等から、耐震性が低い住宅が問題であり、30年後に備えるための維持管理や耐震性を知るための耐震診断が必要であることが示された。また、いつ来るかわからない地震に対しては耐久性の高い対策が必要となることや、被災する住宅は何か欠陥があるもので、何が問題か考えるように習慣づけ欠点を探すことの重要性が紹介された。
その後*来るべき南海地震にそなえて*をテーマにパネルディスカッションが開催された[パネリスト 小川氏、林教授、能島助教授、早川氏、須賀氏、コーディネータ 森助教授(愛媛地震防災研究会会長)]。
想定地震である南海地震、南海+東南海地震、東海+東南海+南海地震と四国の関係、芸予地震の教訓、それらを踏まえた南海地震に対する備え、ライフラインの防災、木造家屋の地震被害と耐震性、地震防災に対する専門家と一般人のギャップ等を切り口にして、広範囲な被害になると四国まで手が回らないので、独自の対応を考えておくことの必要性、行政と市民・地域の連携の重要性と自助の大切さ、過信と上信は技術にとってマイナスであり、被害事例だけでなく無被害事例も含めた正しい評価をして対策する事の重要性等が議論された。
最後に、土木学会四国支部の大内忠臣商議員(愛媛県土木部長)から、国、県、市町村が連携して防災の対応しているところであるが、今後、耐震診断を進め全体像を把握したうえで、これからの防災対策に活かしたい旨説明があり閉会となった。
本フォーラムは、多くの参加者のもと活発な質疑応答により大盛況に終えることができました。ご多忙の中、本フォーラムの開催にご尽力くださいました講師の方々をはじめ、愛媛県、松山市、愛媛県技術士会、えひめライフライン・マスコミ連絡会、愛媛地震防災技術研究会、土木学会四国支部ならびにLiNKスタッフの方々に深く感謝申し上げます。
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