防災雑感 in USA
福井工業高等専門学校
吉田 雅穂
平成17年度、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)にて研究滞在する機会を得ました。10年ぶりの引っ越し、まず行わなければいけなかったのが家とライフラインとの接続でした。水道、電気、ガス、電話、インターネット、ケーブルテレビなどなど。生命線、生活線とはよく言ったものです。全ての接続が完了すると、冷たい箱に命が吹き込まれ、住人に温もりと安らぎを与えてくれます。災害の時以外でライフラインの恩恵を感じる瞬間です。
渡米後間もない4月12日の早朝、地震(M3.9)で目が覚めました。大きな揺れではありませんでしたが、木造2階建てのアパートがミシミシと揺れました。米国地質調査所(USGS)のウェブサイトに「Did you feel it?」というページがあります。いくつかのアンケートに答えると自分の感じた震度を教えてくれるサービスで、日本のアンケート震度に似ています。また、人々から寄せられた回答を基に作られた震度分布も見ることができます。この地震では私も含めて5千件以上のデータが集まっていました。情報の信頼性に不安もありますが、面白いサービスです。
ハリケーン・カトリーナが接近している頃、私は夏休みを利用した家族旅行の道中でした。カテゴリー5がフロリダ半島に上陸した8月25日の前夜、私達が宿泊していた町の名前はユタ州Hurricane。冗談のような本当の話です。約半年後、被災したニューオーリンズの町を訪れました。カトリーナの丁度1年前、私の住む福井でも豪雨により数多くの住宅が浸水しましたが、現在の市街地ではその痕跡も分からないくらい元の姿に戻っています。多くの人々の援助の賜物です。しかし、ニューオーリンズでは主の戻らない住宅が数多く点在し、まるでゴーストタウンのような地区もありました。援助のあり方を考えさせられた災害でした。
この災害後、米国で発生する可能性の高い3つの大惨事を911テロ事件の前に政府が警告していたというニュースを目にしました。それは、ニューヨークのテロ、ニューオーリンズへのハリケーン直撃、カリフォルニアの大地震です。3つのうち2つが現実のものとなり、地震の多いカリフォルニアに住んでいた者として不安な気持ちが高まりました。米国でも日本と同じ様な防災グッズがスーパーに並んでいます。防災リュックもありました。サンディエゴでは1日1人当たり1ガロン(約3.8リットル)を保管することが推奨されていましたが、我が家は飲料水として大量のペットボトルを毎週買い込んでいましたので、水の心配は不要でした。
サンディエゴで傘を差したのは2、3日しか記憶にありません。そのため、街路樹や公園の芝生にはスプリンクラーが毎朝夕に自動散水してくれます。雨が降らないのに給水制限もなく水が安定して供給されているのは不思議です。その理由は、水道水の85%がコロラド川と北カリフォルニアから運河とパイプラインで運ばれてくるからです。水源から遙か1,600kmの長旅です。私が毎月支払っていた水道代が約$60と高かったのも納得できます。しかし、導水ルートには数多くの大断層が横切っています。3つめの大惨事が発生した時、15%の人工貯水池だけでは200万人以上の人々を賄う水の供給は到底無理でしょう。
私がお世話になっていたUCSDの構造工学科では、地震やテロによる構造物の安全性に関する研究が盛んに行われていました。丁度、日本のE-ディフェンスで6階建てRC建物の実大振動実験を行っている時に、UCSDでも同様の実験を7階建てRC建物で行っていました。1つの研究プロジェクトに多くの研究機関と研究者が参加し、大型の実験装置を用いた共同研究が精力的になされていました。しかし、数や規模が大きくなるほど、そのマネジメントが大変になりプロジェクトがうまく進まないというトラブルを時々耳にしました。人々の安全な暮らしに関わる大事な研究テーマですので、のんびり進むわけにはいけません。もっと効率的な方法論を議論する必要があるのではと思いました。
子供が通っていた小学校では年に何度も防災や防犯のための訓練が行われていました。地震を想定した訓練では生徒は机の下に潜って自分の身を守ります。日本と一緒ですね。「地震」と「Earthquake」、言語は違いますが、相手は同じ大地の揺れです。世界の研究者がお互いの知識や技術を共有し協力し合えば、安全な社会への近道が見えてきそうな気がします。島国を離れてみて、改めてその重要性に気づきました。
カトリーナで被災した住宅
(外見は無傷だが室内は土砂まみれ)
コロラド川上流のグレンキャニオンダム
(パウエル湖は世界第二位の人造湖)
7階建てRC建物の実大振動実験
(雨が降らないので実験施設に屋根がない)
▲ |